台湾の蔡英文総統は1日までに台北市内の総統府で、産経新聞の単独取材に応じた。蔡氏は強まる中国からの脅威を念頭に、安全保障問題やサイバー攻撃に関して日本政府と対話したいとの意向を表明した。対話形式は「日本の考え方を尊重する」としつつも中国軍の動向に関する即時情報の共有も含め、日本との安全保障協力に強い意欲を示した。
蔡氏が日本との直接対話の意向を明言したのは初めて。日本と台湾の間には外交関係がなく、安全保障に関する対話は現在、民間・学術レベルにとどまっている。蔡氏は「東アジアに位置する台湾と日本は同じ脅威に直面している」と強調し、「安全保障協力の対話のレベルを上げることが非常に重要だ」と日台の当局間対話を呼びかけた。
蔡氏は「安倍晋三首相は台湾に非常に友好的で、就任以来、(日台関係で)思い切った決定をしてきた。次の段階として安全保障対話を強化する必要がある」と述べ、安倍首相の指導力に期待を表明。台湾や沖縄の周辺を通過して西太平洋に進出する中国の海空軍の動向に関する即時情報の共有についても「非常に重要だ」と意欲を示した上で、「日本側には法律上の障害を克服してほしい」と外交関係の有無を超えた日本側の対応を求めた。対話の内容については「伝統的な軍事面以外にサイバー戦争など新たな脅威についても意見交換したい」と述べた。
蔡氏は、ネット上の偽情報にも言及。昨年9月に関西国際空港が台風21号の影響で浸水した際、「中国の総領事館がバスを手配し中国人を優先的に救助している」との情報がネット上に拡散し、蔡政権の対応が批判された事案を挙げ、「一つの偽情報が台湾に大きな混乱をもたらした」と指摘した。蔡氏は、中国の「網軍(サイバー部隊)」は昨年11月の台湾統一地方選でも、中国寄りの野党と「協力関係にあった」と述べ、中国の選挙介入に強い警戒感を示した。その上で「台湾が今日直面する課題は、他国も将来、直面する可能性がある」と警鐘を鳴らし、「多くの人々が台湾の経験を参考にしようとしているが、台湾も他の国と協力して網軍の効果を抑制する必要がある」と国際社会での一致した取り組みが必要だと訴えた。
蔡氏は「台湾は地政学上、中国が太平洋に出入りする要衝に位置する」と強調。「台湾の安全は世界にとって重要だ」と述べて、台湾の安全保障への国際社会の支持を呼びかけた。
蔡氏が2020年1月の総統選への再選出馬を表明して以降、メディアの単独取材に応じるのは初めて。取材は2月28日、産経新聞東京本社の井口文彦編集局長が行った。会見には台湾の呉●(=刊の干を金に)燮(ご・しょうしょう)外交部長(外相に相当)らが同席した。